カメラレビュー第7回 NIKKOR-N 1:1.1 f=5cm + Z 7(1)


 「大口径レンズに於ては文献などに表されているような普通の収差曲線のみを見て、その善し悪しは軽々に判定出来ない」

 1956年写真工業6月号の誌面上、当時新しく発表したニッコール5cmF1.1レンズの解説でこのレンズの設計した村上三郎はこう述べている。続けて

 「優秀な収差曲線を得て、設計値がまとまり、さて制作した結果は予想に反してまずいレンズが出来ることがよくあるものである。従って鏡径比の小さいレンズとは全く異なり、結像のさまたげとなると予想される収差の要素は見逃すことなくむしろ探し求めて、驚くべき計算力を惜しみなくかけねばならぬことになり、まことに大仕事であった」

と結ぶ。

 NIKKOR-N 5cm F1.1。ニッコールの名のつく35mm用カメラレンズの中で、一番明るいレンズとして半世紀以上経た今も輝き続ける大口径レンズだ。ニコンが現在開発中のZマウントF0.95レンズが出ればその座を明け渡すことになるが、その前にこのレンズをニコンのミラーレス機で使ってみることにする。

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仙人が作ったレンズ


ミノルタ

 今なお、かつて存在していたカメラメーカーであるミノルタを懐かしむカメラ好きは多い。1980年代に多感な時期を過ごした世代にとって、印象的だったX-7のCMや、プロ向けの硬派なイメージのあるニコンやキヤノンにはないスマートさを実体験として記憶しているし、2000年代前半、神尾健三氏をはじめ、かつてミノルタに在籍していた技術者たちが社内での出来事を、様々なレビュー誌や書籍に書き残してくれたことも大きく影響しているのではないだろうか。ミノルタに関することを調べて行くと、その技術者たちが口を揃えて言及している人物がいる。今回その強烈な存在であるレンズ設計者にスポットをあて、また彼をモデルにして登場させている小説と、彼の残したレンズをレビューしてみた。尚、本稿は木辺弘児著「ズガ池堤の家 *[1] 2001年 木辺弘児
(大阪文学学校●葦書房)
」、「日々の迷宮 *[2] 2005年 木辺弘児(編集工房ノア)」の内容を含みますので、未読の方はご注意ください。

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カメラレビュー第6回 Minoltina-S



Minoltina-S(silver, black)

Minoltina-S

 1964年発売。程度の良い大きさのボディと、写りの優秀なRokkor40mmF1.8のレンズを持つ。直線的で落ち着いたデザインは現代的で、後のMinolta CLEを彷彿とさせる洗練された佇まいだ。ただ時代背景を見ると、1961年から発売され大ヒットとなったシャッター速度優先AE搭載のキヤノネットに比べ、マニュアル露出のカメラは厳しい競争を強いられたようで売れ行きはあまり良くなかったらしい。しかし半世紀の時を超えた今、当時の自動露出カメラの機能が劣化したものが多いのに対し、マニュアルカメラはきちんと整備してあげれば当時と変わらない仕事をしてくれる。このミノルチナSも現在では中古カメラの相場は比較的価格が高めだ。

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