田中光学

 古いカメラに関心のない方には聞きなれないメーカーだが、クラシックカメラ好きには比較的馴染み深いカメラであるタナックを取り上げてみる。製造元である田中光学はいつ頃設立されたのか資料が乏しく謎の多いメーカーだ。元々シネマ用レンズを製造していたらしく、1953年ごろからカメラボディを製造し始めている。同じ新興国産カメラメーカーであったニッカやレオタックスに比べ若干地味な存在であったが、レンズは他社に協力してもらうことなくすべて自社生産であった。現在中古市場の中でも比較的高額に取引されているのは、絶対数の少なさがあるものの、ひとえにオリジナルレンズであるTANAR(タナー)の独特な柔らかい描写が評価されているからであろう。

Tanack V3

田中(たなか)光学の「た」なのだろうか

 1953年のタナックC型/F型から1955年のタナックIVSまでバルナックライカ型のコピーを製造したが、1957年ニコンS2に似たタナックSDを発売。シャッタースピード1/1000秒、等倍のパララックス自動補正ファインダーなど、当時としては充実した機能を盛り込んだ意欲的なモデルであったが、自社の生産能力が追いつかず、翌年SDよりも機能を限定したタナックV3を発売する。写真工業1959年3月号の誌面で、田中光学営業部の斎藤友三郎氏がタナックV3について簡単に解説している。
「V3の型式記号についてご紹介しますとV3は3つのVery Goodを意味しております。その3つとは、1.精密かつ高度のメカニズム、2.絶妙な使用感、3.気楽にご使用になれる大衆価格、であってこれはわれわれメーカーとしての根本的製作観念でもあります。」
とV3の名前の由来を語っている。3つの「Very Good」であるなら「G3」の方が良いように思うが、こうした後付け感のあるネーミングやTanackのロゴの最後のkがひらがなの「た」に見えるなど、少々野暮ったいと言うと言葉が過ぎるが、親しみやすい庶民派のカメラメーカーであったことがうかがえる。

 タナックIVSまでのバルナック型ライカコピー機は巻き上げやシャッターの感触などゴリゴリとした動作でとても褒められたものではなかったが、ライカM3を模したタナックV3はSDより機能を限定したシンプルな作りだからか、タナック機の中では一番使いやすい。

TANAR H.C. 1:2.8 F=5cm

 タナーのF2以上のレンズは中古価格は比較的高めで、希少なF1.5レンズは非常に高額で取引されている。標準レンズの中で現実的な選択肢としてタナー5cmF2.8を一番おすすめしたい。明るさF2.8ながらタナー特有のボケ味の柔らかさは健在でピント面は程よくシャープである。被写体やフィルムの種類にもよるが、絶妙な赤(朱)色を出すことができると感じた。

作例



Tanack V3 / TANAR H.C. 1:2.8 F=5cm Kodak GC400



Tanack V3 / TANAR H.C. 1:2.8 F=5cm Fuji 100



Tanack V3 / TANAR H.C. 1:2.8 F=5cm Fuji 100

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カメラレビュー第8回 Tanack V3 + TANAR5cm(2)

カメラレビュー第8回 Tanack V3 + TANAR5cm(3)

出典・参考文献

4 Replies to “カメラレビュー第8回 Tanack V3 + TANAR5cm(1)”

  1. 私は田中光学の社長の三男です。
    この記事興味深く読ませていただきました。

  2. コメントありがとうございます。
    田中光学に関しては、当時のいくつかの製品の紹介記事は残っているものの、
    会社自体の情報は皆無に近く、どのような製造会社であったのか興味は尽きません。
    現代に残る魅力的なレンズを作っていた会社に、どのような人が働いていて、
    どんな職場であったのか、差し支えなければご教示いただけないでしょうか。

  3. 当時私はまだ子供で、どのような人が働いていたかは覚えてません。ただ私の叔父が登戸の工場長をやっていた事を覚えてます。
    工場内には大きなレンズの研磨工場とカメラの組み立ての木造のビルがありました。
    販売の事務所は銀座にありました。

    因みに、私はいまはアメリカに住んでおります。

  4. 叔父様が工場長をなさっていたということは、当時よく見られた家族的な町工場だったのでしょうかね。
    向ヶ丘遊園、登戸周辺から多摩川沿いあたりを何度も散策したことがあります。 
    今でも中古レンズの中でタナーは人気があります。
    なにかとギスギスした世情で当レンズのような優しい写りが求められているのかもしれません。
    この度は誠に貴重な情報ありがとうございました。

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