北斎の八重桜
今の時期になると東京国立博物館に展示される葛飾北斎の「八重桜に流水」。この作品をじっくりと眺めていると「おや?」と気づくことがある。
北斎に限らず、かつての日本の絵師たちは目の前の光景をそっくりそのまま写したわけではなかった。そこには主題の強調や構図の工夫があり、北斎で言えば、単純な円や線の図形から雀や牛を描き起こす絵手本は有名だ。この八重桜の図も、なんらかの調和の工夫がなされていそうだ。白銀比をあててみる。
黄金比等、美的に感じるとされる貴金属比は、これ見よがしに多用するとむしろ逆効果になりかねないが、日常生活から作品制作に全振りであったであろう北斎のような執着型の表現者の場合は、謎解きのようにスケールを当ててみる方が面白い。この八重桜の図はどうやら右側を意識的に切っているように見える。余白を作って青銅比をあててみた。
北斎は江戸期の人物だが、彼がこの世を去って20年を待たずに維新の時代に入っていく。長い日本の歴史から振り返ってみると比較的最近の人だ。老境に入ってもなおさらなる高みを目指した彼は稀有の近代人と言えよう。