RIKENON P ZOOM 1:3.4-4.5 35-70mm MACRO

 現代では単焦点レンズに匹敵、あるいはそれ以上の描画能力を持つズームレンズが存在するので、1970年代、80年代のズームレンズ創成期の頃のものはあまり顧みられることは少なく、中古価格も希少なものを除いて非常に安値に置かれている。古いカメラを愛好している方も、わざわざ大きく重い、描写もそれほどでもないズームレンズよりも、軽く写りの良い単焦点レンズを持ち出す方が多いでしょう。私も長い間、古いズームレンズに対するそのような偏見(というと大げさだが)を持っていたが、今回のリケノンズームは、この見方が全く間違いであることを認識させるものであった。

単焦点レンズのように小さく軽く、さらに寄ることができる




左が初期型リケノンズーム35-70mmF3.5、右がリケノンPズーム35-70mmF3.4-4.5。通常の状態(上)と35mmで最近接の状態(下)での比較

 今回紹介するRIKENON P ZOOM 1:3.4-4.5 35-70mm MACROは、リコーXR-P以降のマルチプログラムAEに対応し、コンパクトかつ全ての焦点距離で近接撮影ができる使い勝手の良くなったモデルである。リコーは1978年に“サンキュッパ”の愛称で発売されたXR500でヒットを飛ばし、カメラメーカー各社はより安く写りの良いズームレンズの競争に突入した。初期型である1981年発売の開放F値3.5固定のXRリケノンズーム35-70mmマクロは7群7枚だったが、改良されたこのレンズは8群8枚となる。焦点距離の移動も当初の直線的に大きく伸縮するものから、極めて小さい伸縮のズーミングに。初期型の345gに対して188g(実測値)、最短撮影距離0.8mから0.45m(マクロ時0.3mから0.35m)と全く別物のレンズのように性能が上がった。これは1980年代始め以降、コンピューターと設計技術との組み合わせである設計力の増強と、工作機械の精度向上によるものという。80年代といえばミノルタのαショックが印象に残るが、ズームレンズの性能向上も目覚ましいものがあった。振り返れば1960年代の一番レフ、1980年代のオートフォーカス化、2000年からのデジタル化とおよそ約20年おきにカメラの変革が起きているが、最近のデジタルカメラの成熟度を見ると、ミラーレス化はたしかに大きな変化だが、もっと大きな変革が起きそうな予感がするが、みなさんはどう思われるだろうか。さて今回のレンズも前回ヤシカ(1)で紹介した藤陵厳達氏設計によるレンズだ。

 アサヒカメラ1982年8月号において「特集ニューフェース診断室 (3)MTFを中心とした各社「35~70ミリズーム」16本の性能全テスト」と題して初期型のXRリケノンマクロズームF3.5が評価されており、小倉磐夫東大教授は以下のように述べている。

 広角側ではF3.5グループのトップに近いが、望遠側で球面収差が大きくなり開放での画質が落ちる。コントラストも低い。一段でも絞るとコントラストは上がる。 
ーー1982年アサヒカメラ8月号 特集ニューフェース診断室 (3)MTFを中心とした各社「35~70ミリズーム」16本の性能全テスト/p265~270

廉価ズームレンズに宿るZunow

Neoca SV Zunow4.5cmF1.8の作例。開放での中心部は溶けるようなボケを見せる。

 どんなレンズでも絞れば概ね画質がしっかりしてくるものだが、約20年前のヤシノンと同じような評価をもらっているところが面白い。開放は甘く、少し絞るとキリッとするのは、かつてのズノーレンズにも見られる傾向だ。ヤシカ以上にリコーでの開発はコストダウンの要求は強烈なものがあったであろうが、藤陵厳達氏のレンズに対する美意識というか、たとえ勤めるメーカーが変わっても確固たる信念が感じられる。上の評価は初期型のものだが、改良されたリケノンPズーム35-70mmF3.4-4.5も同様に広角側は開放でもキリッと抜けの良い写りをする。そして望遠側であるが、確かに柔らかい描写となるものの、そこは1980年代のレンズ。クラシックカメラマニアの世界では80年代のレンズは極めて最近のレンズなので、東大教授が画質が落ちると言う当レンズの望遠開放が私にとっては一番美味しい部分であった。

作例



PentaxMV1 + RIKENON P ZOOM 1:3.4-4.5 35-70mm MACRO / KODAK ProfotoXL100



PentaxMV1 + RIKENON P ZOOM 1:3.4-4.5 35-70mm MACRO / KODAK ProfotoXL100

 ボケにこだわりのある藤陵氏のレンズだ。ここはひとつノイズを乗せて画面を荒らしたり、被写体が動く・カメラ自体を意識的に動かしてブレさせたり、焦点が合わない部分を使って積極的にボケを取り入れたりして、思いきり光と遊ぶのが面白いだろう。



PentaxMV1 + RIKENON P ZOOM 1:3.4-4.5 35-70mm MACRO / KODAK ProfotoXL100



PentaxMV1 + RIKENON P ZOOM 1:3.4-4.5 35-70mm MACRO / FUJICOLOR C200



PentaxMV1 + RIKENON P ZOOM 1:3.4-4.5 35-70mm MACRO / KODAK ProfotoXL100



PentaxMV1 + RIKENON P ZOOM 1:3.4-4.5 35-70mm MACRO / FUJICOLOR C200



PentaxMV1 + RIKENON P ZOOM 1:3.4-4.5 35-70mm MACRO / FUJICOLOR C200



PentaxMV1 + RIKENON P ZOOM 1:3.4-4.5 35-70mm MACRO / lomography COLOR NEGATIVE 100

出典・参考文献