Minoltina-S(silver, black)

Minoltina-S

 1964年発売。程度の良い大きさのボディと、写りの優秀なRokkor40mmF1.8のレンズを持つ。直線的で落ち着いたデザインは現代的で、後のMinolta CLEを彷彿とさせる洗練された佇まいだ。ただ時代背景を見ると、1961年から発売され大ヒットとなったシャッター速度優先AE搭載のキヤノネットに比べ、マニュアル露出のカメラは厳しい競争を強いられたようで売れ行きはあまり良くなかったらしい。しかし半世紀の時を超えた今、当時の自動露出カメラの機能が劣化したものが多いのに対し、マニュアルカメラはきちんと整備してあげれば当時と変わらない仕事をしてくれる。このミノルチナSも現在では中古カメラの相場は比較的価格が高めだ。


一見良さそうに見えるが


何かが足りない

 そんなミノルチナSを私はいつか入手したいと思っていたが、黒のものがそこそこの値段(それでも1万2000円)でオークションに出品されていたので落札した。シャッターも確認済みということで、多少は傷んでいても大丈夫だろうと思っていたのだが……確認済みとあったシャッターが全く切れない。確認はしたが動作するとは書いていないということらしい。絞りはいびつな形をしており、巻き上げレバーは引っかかりもなくスカスカ。完全に部品取り後の個体であった。しかし、なかなか無い黒のMinoltina-S。わずかな望みを託して、いつも利用している修理屋さんに頼んでみたのだが、部品が無いので修理不可とのこと。がっかりである。

 以前から各方面で指摘されている通り、中古カメラのオークションはいわゆるレモン市場であり、情報が制限されている環境での商品の売買は非常にリスクの高いものとなっている。だた、稀にとんでもない珍品や、既存の中古カメラ店では見ることのない、状態の良い古いカメラやレンズが出品されることがあるのも事実で、見極めが難しい。「カメラの知識が無いので未確認」とか、やたらと「!!!」が文面に挿入されているもの、「ノークレーム、ノーリターン」を強調しすぎているものは避けた方が無難である。ダメな部分もしっかり写真付きで解説しているもの、過去の評価で落札者とバイオレンスなやりとりをしていない出品者を選ぶことが肝要である。


300円のMinoltina-S(silver)。レンズキャップ3枚分。

シルバーのMinoltina-S

 それから少し経って中野の有名中古カメラ店のジャンクコーナーにシルバーのミノルチナ-Sが有った。300円の値札が貼られている。いくらなんでも300円は安過ぎで相当傷んでいるのかと思ったが、シャッターはしっかりと切ることができ、絞りも正常で、レンズの傷もほとんどなくスッキリとクリアだ。ただ、ヘリコイドがスカスカで距離計が全く動かない。この状態でなぜ300円なのか理解に苦しむが、黒のミノルチナの失敗もあり、これはなんとかなるかもしれないと購入してみた。

 動作しないこの距離計はおそらく1mから1.5mを示している。近距離限定で試しに撮ってみる。

全然ダメでした。

 まともに写らないがヘリコイド以外はしっかり動作しており、このままにしておくのはもったいない。なんとかならないかと、いろいろ触っているうちにレンズを手前に引っ張りながら回すとわずかに距離計が動くのが分かった。なんとか1〜2m近辺らしき場所に合わせて再び試し撮りをしてみた。


Minoltina-S + ILFORD XP2 400

 

 いきなりしっかりした絵が撮れて驚いた。撮影結果を見てあらためてロッコールの凄みを感じる。1964年ごろは主力のカメラはすでに一眼レフの時代に入っており、距離計カメラは時代遅れになりつつあったが、大衆機でもF1.8という高級なレンズを搭載させるこだわり。このMinoltina-Sはジャンクの状態のままではいけない。ちゃんと修理することにする。


東京カメラサービス・渡辺宣詔氏。私は先生に足を向けて
寝られない。(CanonⅣs改-Serenar50mmF1.9 Fuji100)

修理

 調子の悪くなったカメラをいつも見てもらっている東京カメラサービスのタヌキ先生こと渡辺宣詔氏に修理をお願いした。
先生は手にして少し触るなり
「このカメラね、レンズを引っぱったらダメなんだよね。」
修理職人はカメラがどのように使われていたかすぐに分かると言うが、このミノルチナSを悪戦苦闘しながら使っていたのを見透かされたようで妙に気恥ずかしくなった。
「ボディとレンズの接続部分が弱くてね」
だいたい一ヶ月くらいで直ったら連絡しますとのこと。壁一面に昔のフイルムカメラがずらりと並んでいる作業場を見て、いったい先生はこれまで何台直されてきたのだろうかと想像もできないが、デジカメ・スマホ時代になって久しい昨今、毎月コンスタントに修理している姿を見て頭が下がる思いがした。

修理を終えて

 しっかりレンズと距離計が連動するようにったミノルチナS。これで素早くピント合わせができるようになり、動く被写体にも対応しやすくなった。


Minoltina-S AgfaPhotoVistaPlus200

 

 絞って、ギンギンにシャープにするもよし。


Minoltina-S AgfaPhotoVistaPlus200


Minoltina-S AgfaPhotoVistaPlus200

 

 解放で柔らかい写りを楽しむのも良い。


Minoltina-S Fuji100


Minoltina-S ILFORD HP5

 

 さまざまな表現に対応できるのは機械式マニュアル露出ゆえ。ミノルチナSは当時のコンパクトなカメラの中でも、現代でも輝くの銘機の一台だと思う。


修理を終えたMinoltina-S。修理代¥17,000。金額の多い少ないに関係なく、お金は誠実な仕事をする人に使いたいものだ。

 

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