仮象化の世の中で

メディウムの更新

 現在の美術教育の現場がどのようなものになっているのかは分からないが、私が学生の頃に習ったことは、まず最初に作品を描く土台である基底材(あるいは支持体ともいう)を自分で組み立てることから始まった。角材や板を切ってパネルを組み、布、あるいは和紙を貼り、下地を塗る。ここで注意しないといけないのは、使用する絵の具の性質によって適切なメディウムを選択しないと、せっかく描いたものが剥落したり退色したりするのだ。素材の選択の影響で剥落してしまった最も有名な例はレオナルド・ダ・ヴィンチが漆喰の上にテンペラで描いた最後の晩餐であろう。

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北斎


「八重桜に流水」葛飾北斎, 江戸時代・19世紀 横長判 摺物 東京国立博物館
Double-Flowering Cherry Tree by a Stgream (By Katsushika Hokusai), Edo period, 19th century, Woodblock print(surimono) , Tokyo National Museum.

北斎の八重桜

 今の時期になると東京国立博物館に展示される葛飾北斎の「八重桜に流水」。この作品をじっくりと眺めていると「おや?」と気づくことがある。

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美術と写真(2)

写真と美術(2)

 昭和を代表する知識人かつ教養人であった小林秀雄が、アサヒカメラ1958年8月号[1] の誌上にて、彼が旅先でのカメラ撮影の出来事を語りながら写真美学について論じている。この短いエッセイを取り上げながら、写真と美術について、いくつかの考えを少し語ってみたい。

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