
「仮名消息」藤原俊成(1114〜1204) 筆, 平安〜鎌倉時代・12世紀 紙本墨書 東京国立博物館
Letter in Kana Characters By Fujiwara no Shunzei(1114-1204), Heian-Kamakura period, 12th century, Ink on paper, Tokyo National Museum.
藤原俊成 仮名消息
藤原俊成(1114〜1204)は平安・鎌倉時代を代表する歌人である。その書形は個性的かつ独特で、現代人には判読はいささか困難だ。この消息(手紙)も断簡(切れ切れになった書き物)であり、また宛先や年次も不明で、内容から史実を取り出しにくいという。
幸い、展示の解説横に文章が掲載されており、今話題のChatGPTに現代文に翻訳してもらった。
しかし、下にあるように、文脈が不足していると言う。何度か無理矢理訳してもらってみたが、やはり文章がおかしいものばかりであった。
そこで、過去の研究者の文献[1] を調べてみると、どうも、文章の順番が良くなかったようだ。下図にあるように比較的文字の大きい①、次に②と③(これは右側に存在した文章の末端かもしれない)、そして①の文章の隙間上段に小さい④の順番で書かれているようである。
そしてChatGPTに今度はいくつか単語のヒントを与えて再度挑戦してみた。
昨日のお手紙を拝見しました。
禅師(あるいは前司)からの贈り物、
召し物を頂戴し、大変喜んでおります。何度も
二月に頂いたのに、
またまた素晴らしい贈り物を
大量に頂いて、どうお返ししようかと思い、嬉しく思っています。
それに、過ぎ去った時にも
お手紙を頂いて、お返しを
申し上げたいと思っていましたが、
使いなどさえも叶わず、また手紙を
あなたに書くこともできず、
また嵯峨の便で帰る
人に頼むこともできず、これにもその後は、ここに
年の終わりも
すぐに今日まで
使いなど
頼むこともできず、何も
お伝えできず、
足の
事こそ何度も
心配しています。
今日、人を送ります。
何かしら
足の具合は
どうかとも
聞きたいと思います。ただ
少し
礼に外れた
事を
お伝えするのは、悲しいことです。
俊成の生没年でハルシネーション(AIによる幻覚・ウソ)を起こしている。しかし現代語訳は自然だ。仮名の判読が困難な部分もあるし、意訳もあろうが、藤原俊成が丁寧な文章で相手を思いやって心配しているのは伝わってくる。古筆の展示で、意味も解らないまま通り過ぎる鑑賞者も多いと思うが、筆者の心情がわかると、より深い鑑賞体験となるだろう。
出典・参考文献