この作品は何やらゴツゴツとした壁に金泥や炭で塗られているようだ。よく見ると数字と線が描かれているが、いったい何を意味するのであろうか。腐食し剥落しているが角に壁を継ぎ足したような補修がなされている。中央には金属の細い管が取り付けられ、右端の蛍光灯につながっている。現代美術の作品だろうか。
“文明”という言葉を辞書で引くと、知的水準や技術、交通網、文化が発達し、都市化のもと高度な社会の状態、という説明がなされている。ということは、地下鉄の壁の一角にあるこの作品は、どんな文明も補修も虚しく地下の奥底から腐食していくということを表現しているのだろうか。
見慣れた地下鉄の壁面をまるで芸術作品のように眺めるのは、頭がおかしいのかと言われてしまうかもしれない。かつて宮川淳が言った「芸術の消滅の不可能性」と「見ることの制度」の矛盾を中原佑介は批判したが、私が手を使って作ったわけでもないこの壁を、こうして写真として切り取る(引用する)と、宮川の言葉は間違っていなかったのではないかと思えてくるのである。
出典・参考文献