一から多

　これは以前私が大口商店街で購入した柘榴と、レモンは台所に放置したままにしていて、すっかり水分を失って乾涸びたもの。今も手元にあるこの軽くなった柘榴を手に取れば、あの商店街の光景が思い出されるし、硬くなった二つのレモンを擦ればみずみずしいレモンの香りが蘇る。

　しかし他人から見れば、ただの萎びた柘榴と檸檬だ。当たり前のことだが、この画像を見たところで、こうした私個人の経験を知る由もない。人によっては色が沈んだ、画像ノイズの多い作例だと感じるかもしれない。古いカメラ好きな人であればミランダAとZunow5cm F1.9で撮られた作例なのかと見るかもしれない。またもっと違った見方をする人であれば、フイルムで撮ってはいるが、これはデジタルデータの画像にすぎないと言うかもしれない。もっと突っ込めば、これはサーバーに置かれた画像データが小分けに分割されて、決められたプロトコルに従って届いたバイナリの集積にすぎないと思うかもしれない。

　どのように受け止められるかを考えだすとキリがないが、入力されたものに対し必ず同じ数値が出てくる関数のようなものではなく、（撮影されたものが同じでも）全く異なった結果が複数になってしまうことを意識する必要があろう。