画像認識

「画像認識」原田達也著(講談社)

 私は仕事柄、多くのデジタル画像を見る機会があるのだが、長期間大量の画像を見てくると、Exifデータを見る前に(完璧ではないものの)だいたいどのメーカーのカメラで撮られたものかが分かるようになってくる。カメラが好きな方も、様々なレビューサイトでこれはキヤノンの絵柄だな、とか、この色味はソニーだろうな、とか感じる方もおられるでしょう。Aiの発達でずいぶん過去に撮られた写真を読み込んで、どのカメラのどんなレンズが使用されたかが分かるようになれば面白いかなと思ったが、これは私を含めた古いカメラマニアが喜ぶだけで、一般的にはあまり実用的ではない。しかし、画素からどのようなものが撮られたかをコンピューターに判断させる画像認識(Image Recognition)は、車の自動運転や個人の顔認証等ですでに重要な技術になっているが、将来のカメラにも今後大きな影響を受けることになるだろう。

瞳オートフォーカス

人力の瞳フォーカス(Minoltina-sの投稿よりCanonⅣs改+Serenar 50mm F1.9で)。撮り方は写真家によって様々だが、私はバルナック型カメラの場合、1.距離計窓で焦点を合わせてそのまま1発撃つ。2.50mm窓に目を移して構図を決めて2発目を撃つ。余裕があればもう一枚そのまま3枚目。被写体が動けば1に戻って、そのまま1と2の繰り返し。

 現在のデジタルカメラで必須な技術になったものに瞳フォーカスがある。動く人物や動物の目に常にフォーカスを当てる技術に私はただただ驚嘆するばかりだ。これも画像(というよりもリアルタイムで更新される動画)上で生物の目の部分を認識しカメラに判断させている。自然界には目のような丸い形は多く存在するが、確実に人(あるいはペット)の瞳と判断するにはその周りの髪(毛)、鼻、耳、頭の形、さらに人間(動物)の形も把握してなくてはならない。こうした個別の認知とは別にそれぞれがどのような場面(シーン)に置かれているかも認識させなければいけない。

画像認知が発達した世界

 想像力を膨らませて今よりもさらに画像認知が発達した状況を思い描いてみる。レンズから入力された図像から正確にどんな物かを把握できるようになると(単なる「人」からその属性「男性」「女性」「老人」「子供」等)さらに進んでその関係性(恋人同士なのか親子なのかなど)その場面の状況(背景(風景)と対象物との関係)などを総合して、その場面が「楽しい」のか「悲しい」のか「感傷的」か「恐ろしい」場面か、その画像から受けとる人間の感情までも推測することになる。そして、その受け取る感情に合わせた色味、トーンでレタッチされたものが出力される。さらに、SNS等で高い評価の画像の構図や被写体の構成パターンを取り入れて、例えば高画素で、かつ超広角で撮られた風景の中のより良い構図を探して切り取ってくれるようになる。このような人間の感覚をより正確に取り込んだ機能をGOOGLEやAppleはスマートフォンに搭載してくるであろう。

陳腐化

 しかしながら便利になる一方で、「より良い処理を施された画像」が巷(オンライン上)に溢れ返ることにもなる。皆が同じような作風だと、あっという間に陳腐なものになってしまい誰からも注目されない。今現在でもすでにこの傾向があり、このことを敏感に感じているのは若い世代、特にSNSネイティブの10代20代の女性たちではないだろうか。月一回の雑誌のコンテストに必死になっているおじさん達と違い、彼女達は日常的に不特定多数の人々に自分の作品が批評にさらされているのを自覚している。他人とは違う画質、かっこいい色味、良い写真と言われたい、そのような動機がフイルムカメラや個性的な古いレンズに彼女達を向かわせているのだろうか。

使いづらいカメラだと愚痴を言いながら撮るのが私には性に合っているようだ。高速に動く被写体はあらかじめ距離を決めておいての一発勝負。(Pax M2 / ILFORD DELTA 100)

 陳腐化に関してはGOOGLEやAppleも当然のごとく対応し、かつてプロさえも予想し得ない指し手で勝利した将棋のAIのように、今まで見たことのない構図、色味、画質を、深い学習で鍛えられたAIが提示してくれるようになるのだろうか。そうしたらまたその作風は巷に溢れ陳腐化し・・・とそろそろやめておく。専門外のものが妄想ばかりしていると怒られそうだ。多くのプロカメラマン、写真家を抱えている既存のカメラメーカーが芸術的な分野にどこまで踏み込めるか線引きは難しい所だが、高画質、高画素、高感度、正確なAF、これらはもちろん大事なことだけれども、今後GOOGLEを筆頭に海外のスマートフォンメーカーは人間の五感に響く(琴線を刺激する)製品を投入することは明らかで、高性能だけでは生き残れない時期に来ているだろう。

 

参考文献