「大口径レンズに於ては文献などに表されているような普通の収差曲線のみを見て、その善し悪しは軽々に判定出来ない」
1956年写真工業6月号の誌面上、当時新しく発表したニッコール5cmF1.1レンズの解説でこのレンズの設計した村上三郎はこう述べている。続けて
「優秀な収差曲線を得て、設計値がまとまり、さて制作した結果は予想に反してまずいレンズが出来ることがよくあるものである。従って鏡径比の小さいレンズとは全く異なり、結像のさまたげとなると予想される収差の要素は見逃すことなくむしろ探し求めて、驚くべき計算力を惜しみなくかけねばならぬことになり、まことに大仕事であった」
と結ぶ。
NIKKOR-N 5cm F1.1。ニッコールの名のつく35mm用カメラレンズの中で、一番明るいレンズとして半世紀以上経た今も輝き続ける大口径レンズだ。ニコンが現在開発中のZマウントF0.95レンズが出ればその座を明け渡すことになるが、その前にこのレンズをニコンのミラーレス機で使ってみることにする。
1.1という数字の魔力

米国特許 US2828671A(Google Patents)
Nikkor-N 1.1 f=5cmは9枚6郡ガウスタイプのレンズ構成。1953年のZunow50mmF1.1を皮切りに、1954年フジノン50mmF1.2、1955年のヘキサノン60mmF1.2、1956年にNikon5cmF1.1、1960年にCanon50mmF0.95が誕生した。当時は、いささか実用性を無視したメーカーによる技術の力比べであったという冷ややかな見方もあったが、半世紀以上を経て、それぞれのレンズのF1.4から解放までの描写は、現代のレンズには無い非常に個性的な描写で、その絶対数の少なさも相まって、希少であり貴重な存在の各レンズである。
その中でもNikkor-N 1.1 f=5cmは比較的入手しやすい価格(とはいえそれでも高価であるが)であったので入手していたのだが、いざニコンSPに装着して持ち出しても、貴重なレンズであるため、手を滑らせて落とさないようにとか、レンズを傷つけないようにとか、常に気が気ではない撮影となってしまい、なかなか使いこなせないでいた。また、開放付近の描写をものにしたいと思っても大量のピンボケ写真を量産してしまうことになり、フィルムではどうにも厳しいレンズでもあった。
Nikon Z 7で使うSマウントNikkor 1.1
新しいニコンのフルサイズミラーレス機であるNikon ZではFマウントレンズ用の純正アダプタFTZがあるが、かつてのニコンSマウントレンズをZマウントに直接装着するアダプタはまだないので、ライカMマウントのアダプタを経由して組み合わせた。ニコンSマウントからライカMへはベネズエラ製のAmedeo Muscelli、MからZマウントへは焦点工房のSHOTENアダプタを利用した。なおAmedeoアダプタは公式サイトではNikkor 5cm F1.1は装着不可になっているが、Mマウントボディに付けた場合レンズの後玉の表面にコロが干渉する可能性があるためで、アダプタの装着自体は可能であった。Z 7は非常に持ちやすく手を滑らせてしまうという不安もなく撮影することができる。また、レンズの大きさとボディのバランスが良く、距離の調節や絞りのマニュアル操作は問題なくスムーズに行うことができた。
作例

Nikon Z 7 / Nikkor-N 1.1 f=5cm

Nikon Z 7 / Nikkor-N 1.1 f=5cm

Nikon Z 7 / Nikkor-N 1.1 f=5cm

Nikon Z 7 / Nikkor-N 1.1 f=5cm

Nikon Z 7 / Nikkor-N 1.1 f=5cm

Nikon Z 7 / Nikkor-N 1.1 f=5cm
関連ページ
カメラレビュー第7回 NIKKOR-N 1:1.1 f=5cm + Z 7(2)
カメラレビュー第7回 NIKKOR-N 1:1.1 f=5cm + Z 7(3)
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出典・参考文献
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